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まだ梅雨の中休みだけど、プールサイドにはガラス越しに強烈な日射しが入り込んでいる。オレは久しぶりにプールに泳ぎに来たんだ。今年は、空梅雨の儘、真夏にのめり込むかとも考えたけど、少しずれ込んで雨の日が続くようになった。仕事が立て続けに予定されているので、なかなか身体を鍛える時間に恵まれないでいる。身体を鍛えないと今年の真夏日はバテてしまうんじゃあないのかとも考えて、プールにやって来たんだ。去年まではそれなりの筋肉が身体に張っていたけど、今年は疲れからか引き締まった身体のバネが弱って来ている気がしてジッと自分の身体を見ていると、世間の流れの中でもみくちゃにされながら流れた時間の事が感じられる次第なんだ。何かアップ*テンポで過ぎ去って行く今の1日を思うとき、自分を押さえて生きて行かないと行けない寂しさがこみ上げて来たりもする。こういう環境の中でもオレはオレらしく生きていたい。男の肉体を削がれる事に躊躇しながら、ガラスの向こうの現実の動きの速さにためらいを感じ取りながらも、それでも自分の総てをその要求されるモノに費やして、身体をすり減らして行くことに、嫌気がさしてもいるんだ。オレは元の儘のオレで、ずっとこれからも世の中を渡って行きたい。どんどん、肉体が消耗されて行くのは返す返すも残念だと感じている。プールにはなみなみと水が満たされている。ついこの間までは、水に溶け込むかのように水泳を楽しんでいた。身体には力が漲って、エネルギッシュに物事が進んでいた。それが何処かで躓いて、行く先に不安が広がって来ているのは確かなんだ。何時までも夢を追い続けていられる内が若い証拠だとも、人から聴いてはいるけど、ホントに将来の事にハッキリとしたイメージが浮かんで来ないとき、ジレンマは押さえられないでもいる。このままの肉体を保持した儘で、長くオレはやって行けるのだろうか?そう思うとき、自信が取り戻せないでもいるんだ。身体を酷使しながら仕事に打ち込んで行かないと、明日の糧は得られない。そういう何もかもが頭の中で、グルグル回転をして自分自身を苦しめているのも確かだと言える。街の中を歩いていると自然と胸にたまっていた心配事がはれていたのが何時の間にか嵩になって行く重圧に苦しむようになった。それは誰に話をしても解消はされないモノであるんだ。何とも、オレの身体は蝕まれて貧弱になって行っているみたいに思えて来る。50メートルプールの水に身体を浸して泳いでいると、また忘れてしまえる事なのだろうか?オレの前に来て泳いでいるヤツは威勢よく水しぶきをあげている。筋肉が引き締まって、躍動感に満ちているみたいだ。それを見ていると、カレにちょっと聴いてみたくもなるんだ。・・・<キミには、まだ世の中は余裕に満ちたバラ色の世界なのか?>・・・って。確かにオレには心から笑う瞬間が失せてしまって来ている気がしても来るんだ。何時もひっきりなしに飛び交っている情報を、きちんと整頓出来るサイクルを途切れさせてしまっているみたいなんだぜ。カレはきっと、瞬間に物事を察知して頭の中でまとめる力を保持しているんだ、きっと。だから、水の波間をスピード感あふれる顔つきで泳いでいられるんだ。ついこの間までのオレを見ているような気がしても来る。その時は、まだ怖いモノなしで、自分の思う儘に世の中を渡っていたような気がする。どうしてこうも、はかない袋小路にはまり込んだのだろうか?・・・過去を羨んでももう取り返しが付かないことは分かっているんだ。オレにはオレに課せられたノルマというモノが存在をしているんだから。ジッと我慢をしながら明日の空を期待しないといけない事くらい、分かっているんだ。今年もギラギラした太陽は、毎日のように昇って来るだろう。それに順応して行かないと、次世代の生き方はオレに身について来る事もない。プールサイドには若い身体がしなやかに未来を呼吸しながら、ライバルの泳ぎに見入っている。決して物怖じしないでどんな事態にも対応が可能のように目つきもしっかりと明日を睨んでいるんだ。オレは溢れる情報に意固地になってしまっているかのように感じ取られても来る。
時折、プールサイドから泳いでいる男に声をかけているのを見ていると、出遅れてしまいそうになるけど、それでもオレは唇を噛みしめてひとりの辛さも堪えているんだ。カレの筋肉に比べると、何ともバネみたいなモノにかけている。・・・<もう、泳ぐのを止めて帰ってしまおうか?もう、ココもオレみたいな男が来るような所でもなくなってしまっているみたいだ。>・・・水に飛び込む事をためらう心が頭を乱すような混乱が駆けり抜けて行く。それでも、プールのなみなみと満ちた水はこれまでは、オレの得意とする所だったんだ。滑るように泳げていた感覚がまたオレを呼び止めてもいる。考え込んでいる内に、水泳タイムの休憩の放送が流れ出してハッと吾にかえった。
オレの横で休んでいるヤツも特にオレを気にしているみたいでもなく、ブルッと水をはね除けてバスタオルを身体に掛けて、自分のペースを保つかのように息を付きながら青い水面を見つめている。その仕草が何ともスマートなので、オレも何とか次の水泳タイムから泳いでみようと言う気になって来た。夏の日射しが裸のひとつひとつを綺麗にダイナミックに見せつけて輝かせている。オレの身体にもその光が射し込んで来ている。スポーツ飲料を飲みながら、話に弾んでいる場所もあるし、シーンと静まり返った中で自分との対話に入り込んでいる場所もある。掲示板に夏の水泳大会のスケジュールが書き込まれている。誰も自分を鍛える事に集中しているみたいなんだ。特に、こういう時期って弱音は禁物なのかも知れない。いくら辛いからって尻込みをしていたら新しい未来に出遅れてしまうんだ。水泳タイムが始まったと合図があった。オレは、心を決めてスタート台に立ってみた。何を怖れているんだという気持ちが強くなって来たからだ。これまで随分と水には馴染んできたというのに、今更、怖がってもしょうがない。むしろこれから、オレの勝負は始まるんだ。スタート台から思い切って飛び込んでみると、水はとても身体に気持がいい。それより、綺麗なフォームで飛び込めただろうかという気持ちが湧いて来るのも不思議だ。ゆっくりと泳いでいると、以前の感が取り戻せて行くみたいなんだ。そう、オレにも水は居心地の良い場所なんだぜ、やっぱり。もっと、続けて身体を泳ぎに合わせて動かせてみたい。ただ、時代の大きな移り変わりに転びそうになただけじゃあないか!また、きっとオレもしなやかさを身に付けて見せてやりたい。水に浸って泳ぎに神経を集中しながら、そう言い聞かせたんだ。オレもずっと夏の生き物である事を遠い記憶から甦らせながら。
えいぞう
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