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早春の光は辺り一面に満ちあふれているんだ。凍て付いて身動きさへしなかった生き物が徐々に目覚めから醒めて深呼吸をし始めようとしているかのようにも感じられて来るんだ。冬の間は、一人で孤独を味わってついぞ周りの何にも眼をくれても見なかった心が閉ざしたドアを開いて、自分を迎えてくれるモノに一生懸命になって行くみたいに、彩りを添えて来ているごく自然な広がりに憧れては羽根を伸ばして飛び立とうとするのも、季節の移り変わりから来る身体全体からの喜びの表現であるかのように思える。どれほど、自分がこの世の中ではちっぽけな存在であるかは、知り尽くしているんだ。誰よりも誰よりも、取り柄がなくて劣等感に苛まれては、奥深くで泣きじゃくっているかぐらいは言われなくても、知れた事なんだ。オレなんて、世間の流れの中では振り返られる事もない藻屑のように綺麗さっぱりと消されて行った方がいい。人の集まる所にたむろしても、どうしてか敬遠されて放って置かれると、情けなくなったりもして来たりする。自分にはどうして人に自慢出来るような何かが欠如しているのだろうか?それを考える度に、せつない吐息をついてしまう。静かに明けて行く春なら、そんな事等、気にもせずに自分なりの空を眺めて生き果せただろうけど、これ程、せっぱつまった時代になると、自分なりの男としての匂いを放てられずに、宙に何時も浮いているようなのは、辛くて仕方がないんだ。頼りがいのない男だと言われる事に敏感に反応して、やっぱりコンプレックスを感じてしまうんだ。オレがいるポジションって、やつが変わりようもないのなら、オレは何時まで経っても同じ悩みを抱え続けるんじゃあないのだろうか?その真っ黒な回路を辿る事に疲れては、複雑な心境で世界が温もりに再度の芽吹きを始める夢に微睡みも出来ないんだ。何て寂しい男に生まれついたんだろうか?それを考える度ごとに泣きたくもなるんだぜ。春なら、誰でも夢に胸を膨らませて笑い合いふざけ会うと言うのに、オレにはこれっぽっちもそういう機会がないように思えて来るのが残念でたまらないんだ。オレだってセンチになる事くらいあるんだ。オレは、苦しい時につけ、悲しい時につけ、京都にある金閣寺が眼に浮かんで来るよ。金閣寺を炎上させた青年僧の気持ちがまた、脳裏を過ぎって行くんだ。どうして、大それた事をやっちまったんだろうか?国宝の寺に火を放つなんて事をやっちまったんだろうか?黄金に輝く国宝の楼閣をこの世から消してしまおうとしたのだろうか?三島由紀夫の文学世界に出逢ったとき、オレはこれこそが、読みあさらなければいけない男の苦悩とダンディズムの世界だと感じ取ったんだ。由紀夫が子爵家の家柄で、祖母に育て上げられた事を聴いても、それ程、共感は生まれないけど、自分が幼弱であるのを、自分で肉体から鍛え上げた信念には驚かされる所が多い。カレの文学とカレの生き方との出会いがなければ、もうとうにオレはこの世の存在を拒否していただろう。カレは、自分の目指す男の生き方を貫き通したんだと、今でもそう信じているんだ。由紀夫が自衛隊基地で割腹自殺を遂げた事実も、オレには男の美学のように見えて来るんだ。それは、かつての封建制の男の匂いをも持ちながら、素晴らしい輝きを放っている。寂しい男はいくらでもいるけど、カレほど、華々しく生き抜いた男もいないと心では何時もそう感じているぜ。虚弱な魂が熱情を込めて作り上げた自分と言う男なんだ。由紀夫は今でも、オレの心の支えでもある。何度も苦悩に明け暮れたあげくに、内容が人の文学の内容と交差して、分かりにくくなって来てしまった年頃になっても未だに、胸に受けた新鮮な衝撃の感覚は息づいているんだ。まだ、カレの文学を知らなかった時から、金閣寺はオレには眩いモノだった。この世にこんな建物があるんだなあ。・・・って、そう心に刻ませた。それが由紀夫の文学に再登場した時、オレは非常に嬉しかったし、金閣寺が再建されたモノで、それを炎上させた青年僧がいて、何故、あんなに荘厳な建物を燃やしてしまったのかとも思ったけど、その僧の気持ちの葛藤を思い図る度に、金閣寺が放つ魅惑の虜になってしまうんだ。早春の金閣寺はどういう顔をその湖水に浮かべているのだろうか?まだ、緑の風が吹く前で、その見事さは見られなく、静かに春日に照り輝いているに過ぎないと言うかも知れないけど、あの荘厳さには、いろんな男達の頭を思い巡らせた後が、息吹いているように思えて来て何がいけないんだろうか?・・・オレは、フッと思い出す癖がある。冬の朝の眼に眩しかったあの光は、金閣寺からオレに届いていたのではないだろうかと。それは、眼を細めるばかりの眩しさで、只の石ころでさへもまるで宝石のように身間違えをさせるくらいなんだ。オレは誰からも振り返っては貰えないようなそんな、一つとして取り柄のない男だけど、オレもオレらしく男になりたい。今でも切にそう願って止まないんだ。何時かは、世間の闇に落ち込んで広い所のない性のない孤独な男になり果てるのかも知れない。そう、分かっていながらまた、抗おうと一生懸命になっている。まだ、自分と言うモノが得体の知れない暴走をしようとするからだろうか?人は違う輝きの中でときめこうとするからだろうか?オレには、人には言えない春の匂いを吸い込んでは安堵を覚えるばかりだからだよ。飛び立つ世界が違おうとも確かに煌めきはまた、オレに近づいて来ているのが分かるんだ。
えいぞう
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